秋田美人のいわれについて、諸説を考察してみる

秋田美人という言葉がある。

色白で鼻すじの通ったコーカソイド系(白人系)の顔立ちが秋田県の女性に多いという。

しかしDNAで調べてみたところ、秋田の女性とコーカサス人に関連性は見当たらなかったらしい。

では、秋田美人とはいったいなんなのか。

これが調べれば調べるほど、つかみどころのない話だった。

佐竹義宣と秋田美人

江戸時代に秋田藩主の佐竹義宣が茨城から美人を連れてきたという説がある。

佐竹義宣が茨木の水戸から秋田に減転封(54万石→20万石)される際、腹いせに水戸にいた美人を選抜して秋田に連れてしまったのだという。

そのために秋田に美人が多いというのだが、同時にそのせいで茨木に美人がいなくなった、という尾ひれまでついている。

これは一瞬信憑性があるように感じるかもしれないが、実際には与太話の類といわざるをえない。

公的な記録にはこのような話はなく、戦国武将であった佐竹義宣の時代から150年以上も経ってから、菅江真澄が「秋田杉や秋田美人も佐竹氏についてきた」と書いている。

菅江真澄は江戸時代中期に生きた旅行者で、『菅江真澄遊覧記』は公的資料ではなく民俗資料だ。

そして、じつはこの手の俗話は使い古されたパターンなのである。

たとえば、愛知県には美人がいないという。

その理由は、織田信長が尾張から安土へ美人を連れて行ったから。

そして、豊臣秀吉が尾張から大坂へ美人を連れて行ったから。

さらに徳川家康が尾張から江戸へ美人を連れて行ったから。

三英傑そろい踏みでおなじ話なのである。

つまり、この手の話は地域を変えながら似たようなパターンで継承されてきた。

現代ではあまりにも粗雑で乱暴な話だとおもうが、当時の人々にとっては、一種の鉄板ネタだったのではないか。

江戸時代に、秋田美人のうわさがあったのは事実だろう。

しかしその源流をたどると使い古されたジョークの域を出ず、真偽についてはほとんど眉唾物といえる。

気候風土と秋田美人

気候風土が秋田美人を形成したのではないかという話がある。

日本海側はたしかに年間平均でみれば湿度も高いし、日照時間もほかの地域よりは少ない。

それによって色白の女性が多いというのだが、実際の秋田が、外仕事をしていても日焼けをしないような気候であるとはおもえない。

大部分が山で覆われた地域で、男女問わず人々はおおむね外仕事で汗を流したことだろう。

夏はきちんと暑いし、冬は雪深く、外に出れば顔は雪焼けする。

多少湿潤で日照時間が少なくても、よそと比べて劇的に環境に恵まれているということはないだろう。

そんな中で、秋田だけ美人がそろうというようなことも考えづらい。

秋田美人とマーケティング

ここまで書いてきて、身もふたもないことをいうが、美人の基準なんて曖昧なものを、地域性と絡めることには、なにか意味があるのだろうか。

いまどきの価値観からいえば、そんなものに意味などはない、と言い切ってしまいところなのだが、この意味の部分にこそ真相があるような気がしないでもない。

江戸時代の藩制度のように、地域が半ば要塞化したような時代では、閉ざされた空間の中で遺伝が進むわけだから、似たような風貌で固まることはありえる。

そういう閉鎖性があった頃なら、美人の地域性が取り沙汰されることはありえるだろう。

しかし、明治に入って藩制度が解体されて、国境の隔たり、村の隔たりがなくなって、人の往来が自由になると、人間の風貌の地域性などはあってないようなものとなる。

それでもなお、秋田美人という言葉が生き残り続けたのはなぜだろう。

あるいは、明治時代以降、秋田美人という言葉がマーケティング的に作用したのではないか。

明確にだれがマーケティングをしたというよりは、従来のうわさをてこにして広めていったというようなことである。

平安美人として知られる小野小町はいまの秋田県湯沢市が出身地だったという。

佐竹義宣が美人を連れてきたという俗話もある。

まことしやかに伝わっていた美人伝説が息づく中で、明治以降、鉄道などの移動手段が現れて、さらには資本主義社会になった。

地域に人や金を呼び込むための、町おこしという考え方が生まれたのである。

江戸時代とはちがった価値観が生まれたことで、美人伝説が秋田にとっての格好のアピールポイントとなった。

現代でも知られている例をあげれば、米の品種である「あきたこまち」がある。

秋田県民が、秋田美人をアピールポイントと考えていなければ、このような品種名が受け入れられることはなかっただろう。

この美人伝説に、実体がともなうかともなわないかは関係がないのである。

美人という尺度のない概念に対しての信憑性よりは、このような経緯で美人伝説が生き残ったと考えていくほうが、しっくりくるのではないだろうか。

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