「光る君へ」序盤の評価

前回の「どうする家康」は箸にも棒にもかからぬ駄作だとおもったのだが、今回の「光る君へ」はどうかというと、非常におもしろい。

2月に入った序盤では、若き紫式部と、将来の権力者となる藤原道長との恋の行方が気になるところ。

まず幼少時、天皇の側近である超エリート、藤原兼家(道長の父)の一族による謀略と横暴がクローズアップされる。

学才はあるものの官途に恵まれない藤原為時と、その学才を受け継ぐ娘の紫式部(まひろ)が、兼家の息子のひとり、道兼の横暴に巻き込まれるという筋立て。

つまり、式部の母が道兼の横暴によって殺されるのである。

このあたりは完全に脚色なのだが、これによって紫式部に一種の反体制的な感情が醸成されていく、という味付けをしている。

にもかかわらず、兼家の一族の中では良識人として描かれる藤原道長に恋心を抱く、というアンビバレントな展開。

脚色がじつにうまい。

式部の父親の為時は、妻を殺したのが天皇直属の立場にいる兼家の一族であることから、その死をつまびらかにせず、殺人ではなかった「かのように」ふるまおうとする。

そのような大人の事情も、式部には納得がいかない。

もちろん、式部の正義は筋が通っているのだが、式部が母の死の真相を訴えても、権力によってひねりつぶされるのは目に見えている。

大人になりつつある式部がそこでどう立ち回るか、ということがいまの見せ所だ。

殿上人のミヤビと、水面下での権力闘争、そして体制に蹂躙された側の憎悪と、庶民のありようの、描き方のバランスがとれている。

本来、この時代は作品にしづらいはずだ。

なにせ平安時代で、平将門の乱は鎮圧され、源平と朝廷による劇的な歴史ドラマが起こるのももうすこし先で、曲がりなりにも安定した時代。

おそらく藤原兼家一族の権力闘争が最大の山場なのだろうが、通史の中でいえば地味なところである。

「鎌倉殿の十三人」も、通史の中でみれば地味なところをうまく切り取った作品だったが、現代は三英傑の織豊時代や明治維新のような、騒乱の時代を描くよりも、これまで描かれてこなかった地味なところを掘り下げていく話のほうが盛り上がるのかもしれない。

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