十和田市と高村光太郎、八郎太郎伝説と、独特な気候風土と農産物について

青森県には約123万人が住んでいて、十和田市の人口は6万人である。

青森市(27万)、八戸市(22万)、弘前市(16万)に次ぐ4番目に人口の多い自治体であるが、トップ3が県内人口の半分を占めていることを考えると、十和田市の位置づけとしてはベッドタウンになるだろう。

十和田市の位置も、西に弘前市、北に青森市、東に八戸市を構えており、県内都市部へのアクセスがよい。

市の面積でいえば、むつ市、青森市に次ぐ3番目に大きな自治体であり、秋田県鹿角郡とまたぐ形で十和田湖(十和田火山)があり、十和田八幡平国公立公園、奥入瀬渓流と景勝に恵まれている。

人口は平野部の市内東部に集中している。

西部は火山が形成する山地となっており、広く標高200mほどの中山間地域が広がっており、十和田湖周辺は600mほどの山になっている。

総じて言えるのは、荒々しく、うつくしい自然に恵まれた場所である、ということだ。

高村光太郎と十和田湖

十和田湖を世に知らしめた功労者をたたえる名目で、十和田湖に記念碑を建てるという計画が昭和はじめごろから起こる。

戦後、これが青森県が主体となって著名人を抱えた大きなプロジェクトとなっていく。

その記念碑建立の担い手となった高村光太郎は昭和28年(1954年)に十和田湖畔に「おとめ像」を建立した。

建立後、『十和田湖の裸像に與ふ』という詩を書いている。

銅とスズとの合金が立つてゐる。
どんな造型が行はれようと
無機質の圖形にはちがひがない。
はらわたや粘液や脂や汗や生きものの
きたならしさはここにない。
すさまじい十和田湖の圓錐空間にはまりこんで
天然四元の平手打をまともにうける
銅とスズとの合金で出來た
女の裸像が二人
影と形のやうに立つてゐる。
いさぎよい非情の金屬が青くさびて
地上に割れてくづれるまで
この原始林の壓力に堪へて
立つなら幾千年でも默つて立つてろ。
自然の中に人工物がつくられて、この人工物が何千年というときを経て、自然物のように朽ちていくという、無機質で透徹した無常観を感じる。
十和田湖はそういった悠久の自然を感じさせる場所だったのではないか。

八郎太郎伝説

十和田湖には八郎太郎の伝説がある。

マタギの若者であった八郎太郎が、本来仲間と分け合うはずのイワナをひとりで平らげてしまう。

すると掟を破ったことにより八郎太郎は龍になってしまい、そのまま十和田湖に住み着くこととなった。

100年も経ったあるとき、修験者の南祖坊が修行中に神託を授かり、十和田湖にあらわれた。

神託により、この湖がじぶんの安住の地であるという南祖坊の前に、八郎太郎がたちはだかり、戦うこととなるのだが、最終的に南祖坊が勝利する。

八郎太郎は十和田湖から離れ、秋田県に移った。これが八郎潟といわれる。

神話というのは、なにかしら実際の歴史を伝説として流布していることがあるのだが、この昔話を解釈する場合、おそらくむかしは竜神のような、その土地の精霊を崇めていたのだろう。

そこへ仏教由来の山岳信仰が入り込む。

修験者がみずからの修行の場として、十和田湖周辺の主流派となる。

そして精霊への信仰は十和田湖から秋田県に移っていった、というところだろうか。

八郎太郎をどう解釈するかはむずかしいが、その土地に古くから存在した、由来のよくわからない神という印象を受ける。

八郎太郎の伝説は最終的に、八郎潟、十和田湖、田沢湖をむすぶ三湖の物語になるのだが、これは当時の東北の巨大水源を守るためにあったといえるのではないか。

仏教説話が、仏教の霊験を庶民に伝えるための物語であったように、こういった古い話には、なんらかの意図があるとみるのが一般的だ。

八郎太郎伝説の場合は、三湖が共通項をもつ神仏によって、東北の人々の守るべき場所になっている、ということであり、これによってみだりに外部の人間の侵略を許さないという論理になる。

独特な気候を生かした農産物

青森の十和田市、三沢市、上北郡は、それぞれの頭文字をとった上十三(かみとうさん)地域である。

上北郡は野辺地町、七戸町、六戸町、横浜町、東北町、六ヶ所村、おいらせ町を含む郡だ。

地図上で見ると、陸奥湾の突き当りの陸地から十和田湖にかけて、青森県を右から左に袈裟懸けするような形でつながっている。

この一帯は「やませ」という偏東風が吹く。

東から西へ、それこそ上十三地域を袈裟懸けに通り抜けていく冷たい風で、これが長期間吹くと、凶作の原因となった。

このやませを利用した農産物として、ニンニクがある。

青森のにんにくは有名だが、とりわけ十和田では生産量が日本一だ。

やませがあるからこそ、晩生の六片種がよく太るのである。

よその地域だと、ニンニクは6月に収穫期を迎えてることになり、早生の十片種をつくるのが一般的だ。六片種はつくっても未熟な小さいものしかとれない。上十三地区はやませがあるため、7月まで収穫期を遅らせることができて、じゅうぶん太った六片種が収穫できるわけだ。

また十和田湖は火山なのだが、大きな火山のある周辺地域には灰が降り積もっている。

灰が数m単位で積もっているような黒ボク土が分布しているところでは、根菜をつくるといいものができることから、ごぼう、山芋も特産だ。

また、こういった土では土寄せもしやすいのだろう。白ネギも特産である。

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