世俗的な話題なのだが、いわゆる芸人として知られるプラスマイナス岩橋氏が、所属していた吉本興業を含めた芸能界を相手に大立ち回りをしている。
ここ最近、こういった話題には事欠かなくなっていて、芸能事務所が攻撃される時代になった。
ジャニーズ問題、松本人志問題と、芸能界を揺るがす事件が立て続いている中、いま起こっている乱戦はいったいなんなのか。
幕末と芸能界
歴史から同様の流れを探るとすれば、幕末の文久時代前後の、幕府なにするものぞの気風が社会にあらわれたころのようである。
芸能界を無理に明治維新期の幕府に見立ててみると、松本人志は幕政の重要職にある大老のような位置にいたといえよう。
もちろん芸能界を幕府にたとえるのは、ほんとうは無理筋である。
いま起こっているのは芸能界そのものの問題というよりは、芸能事務所の問題だからだ。
ジャニーズ事務所しかり、吉本興業しかり、そこに現代社会と相容れない問題が横たわっていて、そこが抜本的なところで解決できなければならない。
しかし芸能界そのものは実体があってないようなものであり、幕府のような封建的体質を持っているわけでもないので、芸能界が芸能事務所を裁くわけにはいかない。
その点でいえば、それぞれの芸能事務所は諸藩のようでありながら、それぞれが独立した幕府のようなものだともいえる。
つまり芸能事務所の体質を芸能界が変えることはできず、芸能界で自浄作用は働かない。
ここで現れたのが革命家として立ち回るタレントとマスメディアだ。
ジャニーズだとジャニーさんに性被害を受けたという元タレントたちで、今回の岩橋氏のように吉本からは何度か革命ののろしがあがっている。
幕府の場合、維新の四半世紀ほど前に大塩平八郎の乱があったことでもわかるのだが、すでに幕政に対する不満は極に達していた。
その中で、さらに数十年かけて討幕の機運が醸成されていったのである。
これを芸能界問題に当てはめればどうなるか。
吉本興業は封建主義的なのでわかりやすいのだが、岩橋氏を解雇してしまった。
いま吉本がやっているのは大塩平八郎の乱や、その20年後に起こった安政の大獄とおなじなのである。
幕府は世直しを唱える有為の志士を粛正したが、これが維新革命の発火点だった。
歴史をみれば、体制側に都合のいい人間を殺すのは、むしろ革命の火種をばらまくようなものである、といえる。
やればやるほど、手に負えぬ山火事を起こすリスクは高まっていく。
その点で吉本興業は、幕末の幕府のごとき悪手を繰り返しているのだが、いま起こっていることもやはり大塩平八郎の乱とおなじく、いったんは鎮圧されて、それで終わるということもありえる。
もちろん体制側の腐敗体質が変わらなければ、いずれ革命は成るだろう。
しかしそれまでに体制側の体質が変わるかもしれない。
いずれにせよ、革命家たちのその累々たる屍の山は礎になるのだが、ぼくとしては、いまだに芸能界は表面を取り繕うことしかしておらず、本質的なところは変わっていないようにみえる。
ぼくは芸能事務所で起こっている問題を幕末にたとえたが、現代ではむかしのように、命のやりとりや体制の破滅ということにはならない。
ジャニーズ事務所が名前をあらためたように、着地点は用意されているし、吉本興業だってそうだろう。
芸能事務所と対立する新メディア
ところで、明治維新の着火点は安政の大獄だったが、革命家を大量に輩出したのには、べつの理由がある。
それは、西洋から封建主義以外のあたらしい国家運営のありようが示されたからだ。
王政と騎士による封建主義が、資本主義と民主主義によって覆され、日本でもこの流れに乗ろうとする者が出てきた。
もはや幕府の悪政に従わずとも、西洋のやり方に則ってあたらしい社会を運営できるはずだという機運が高まり、維新が成ったのである。
これも芸能界に置き換えられる現象だ。
ネットでYouTubeなどのメディアが出てきて、必ずしも個人が芸能事務所にいなければ生活が成り立たないということもなくなった。
むしろネット系のこれらの媒体は飛ぶ鳥を落とす勢いがあり、テレビ業界を中心に依存した古い権威的体質をもつ芸能事務所を打倒する機運は高まっているといえる。
つまりいま起こっていることを大局的にいえば、テレビメディアがネットメディアに浸食されているということなのだろう。
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